ゼレンスキー大統領のスピーチ@ヴェネチアビエンナーレ

はじまったばかりのヴェネチアビエンナーレの付属イベントとして、ウクライナのPinchuk Art Centreとウクライナ大統領府と同文化省の共催展『This is Ukraine: Defending Freedom』がひらかれている。オープニングでゼレンスキー大統領が行ったスピーチが興味深かったのでざっくり訳した。正確さは保証しません。

new.pinchukartcentre.org

会場のみなさん。地球上のどこかの国家が自由のために戦っていない年など、おそらくこれまでなかったでしょう。しかし多くの人々がそれを知らずにいた年は数多くありました。それは独裁者がのぞむことです。2月24日のロシアによる侵攻後、わたしたちはこの自由のための戦いに、注目をあつめることができました。しかしそれだけでは不十分です。実際の支援をあつめなければなりません。武器、経済、政治的決定、継続的な情報流通。この自由の防衛にヨーロッパとアジアのおおくの国の行く末さえもがかかっているにもかかわらず、我々は支援を求めて戦わねばなりません。これこそが独裁者を助長させるのです。安全にすごすいくつかの国は、脅威にさらされる自由国家をすぐに支援する体制にありません。まだこのような支援を自身の戦いだとする姿勢にありません。

ここに疑問があります。とても重要な点です。民主主義の世界すべてが自由のもとにつくられたのだとすれば、なぜ自由をまもる時しばしば孤独を感じるのでしょうか。自由が普遍的価値ならば、自由のために戦う国になぜ等しく支援がなされないのでしょうか。重大な局面でわたしたちを隔てるものはなんでしょうか。政治家はこたえてくれません。この疑問に答え、事態を正すことのできる専門家はいないのです。メディアにも答えを見出すことはできません。なぜならこれは言葉を超えたことだからです。

一週間前マリウプルでのロシアの砲撃により亡くなった母親のために、手紙を書く少女の気持ちを表現できる言葉はありません。ロシア軍の占領を追い返しブチャにたどり着いたウクライナ兵が、殺された何百もの人々の遺体がただ地面に倒れているのをみた時。その気持ちをテレビのニュースはつたえることができません。ハルキウ市街で、ロシアの砲撃による負傷者の手当をしていた医療者が、自身も砲撃の危険にさらされながら感じていた気持ちを伝えることのできるプラットフォームはありません。数百万のウクライナの男女が今あるように、避難のために家を失う者の気持ちは、経済レポートでは伝えられません。

アートを制限しようとしない独裁者はいません。なぜなら彼らはアートの力を知っているからです。アートは他の手段で共有できないことを世界につたえることができます。アートは気持ちを伝達する。自身が自由にあるとき、どうすれば自由のために戦う他者を理解することができるでしょうか。自身が平和な国にいるとき、平和を夢見ることしかできない人々の気持ちを、どうすれば理解し、助けることができるでしょうか。自身が自由にありながら、祖国の地で戦う人に感謝するにはどうすればいいのでしょうか。これらはすべてアートに関わる問題です。

ヴェネチアビエンナーレでこのプロジェクトを実現してくださったすべての方に感謝します。ウクライナの自由を守る戦いの意味。そして地球上のすべての自由世界の人々とウクライナの人々とのつながり。そして誰にも等しい自由のための戦いを、誰しもが支援できるということ。この展示によって人々は感じることができるのだと確信しています。この戦いをアートで支援してください。同時にことばで周囲のひとに伝えてください。このアーティストたちに目を向けてくださることに感謝いたします。

世界保健機関のオリンピックに関する発言について

jp.reuters.com

こちらのロイター日本語版の記事と、日本語圏からの反応に強い違和感があったので、マイケル・ライアン氏の発言を、雑に訳してみた。記事とかなり印象が違うのではないかと思うが、どうだろうか。

追記2021/5/9午後:もう少しコンテクストがわかるよう、ややさかのぼってロイターの質問からヴァンカーコヴ氏の回答までを追加して訳した。これでロイターの質問に対する回答の全体像になる。

=== ここから ===

——司会

では、質問を受け付けたいと思います。 改めて、本日は特別ゲストとして、技術アドバイサリグループ議長のローレン教授と、賢人会議長のラヴィオト教授にお越しいただいています。 準にお聞きしますので、挙手でお願いします。 では、ロイターのエマ・ファラージさんから。 エマさん、ミュートを切ってください。

——ロイター記者

こんにちは。質問を受けてくださりありがとうございます。 気になっているのですが、オリンピックまで2ヶ月となりました。 安全に開催する方法はあるでしょうか?  ありがとうございます。

——司会

ではヴァンカーコヴ博士から始めましょう。

——ヴァンカーコヴ

わかりました。他の方からも追って答えていただきます。 ご質問は非常に具体的ですが、私の回答はかなり一般論になります。

現在たくさんのことが起きています。 全体としては、世界で症例の増加がおきています。 症例数は過去最大となっており、世界で報告される死者数は非常に厳しいものとなっています。 感染を防ぎ、感染者が感染を広めることを防ぎ、人が死ぬことを防ぐ。感染拡大を制限するために、我々が手にしている最大の手段。それは物理的ディスタンスなどです。

とはいうものの。個別の状況下でアドバイスされるべきは、リスクベースアプローチです。 世界各地の状況は大きく異なります。 感染力は大きく異なります。 ですから個々人のみなさんに我々がお願いすることは、行動のリスクを知り、そのリスクを下げる手立てをとるということです。

物理的ディスタンスをとりましょう。 マスクをしましょう。 屋内では換気をよくしましょう。 安全であれば、窓を開ければいいのです。 呼吸エチケットをまもりましょう。 順番がきたらワクチンをうちましょう。 大規模な集会を避けましょう。

イベントの開催国を支援する際、我々は開催の可否判断にリスクベースアプローチを取ります。 オリンピックでも自宅のバーベキューでも同じです。 オリンピックや、宗教のお祭や、政治集会などの大規模集会に注目が集まりがちですが、自宅での小さな集まりにもリスクがあることを忘れないでください。

住んでいる場所にもよります。 ウイルスの広まっている度合いにもよります。 予定されている地域で、どれだけの然るべき対策が準備されているかにもよります。 例えば、症例検知、初期対応、感染者支援体制、接触追跡、優れたコミュニケーションプラン。 さらに個別の国における、ワクチンの割り当てや接種体制も重要でしょう。

ですから、私の答えは一般論です。 現在世界で開催されるどのイベントも、どの集会も同じです。 本当に重要なのは、世界中の一人一人がこのウイルスとその変異株に対する曝露を最小にすべく、安全を保つ策をとり、そのことによりウイルスの拡散を防ぐことです。

ではマイクさん、どうぞ。

——ライアン

オリンピックに関わる課題は多面的です。 選手村とオリンピック環境における、アスリートとチームの安全に関わる課題。 それから会場の課題。 そして観客は出席するのかしないのか。 さらに会場周辺での人の接触の課題。 そして観客や参加者は国外から来るのかという課題。

これら全て個別に検討される必要があります。 オリンピックを開催するか否かという問題ではありません。 枠組みに含まれる個々のリスクはこのように個別に管理されるのです。

やってくるチームと代表団のための手順書のため、途方もない作業が行われてきました。 チームの検査と隔離と到着に関する多くの準備。 選手村、トレーニング施設、会場周辺でとられる対策。 さらに施設内にやってくる出席者の問題もあります。

日本を取り巻く状況のため、日本政府当局とIOCはまだ会場の入場レベルに関する最終決定をしていないものと理解しています。 日本の陽性率は約7%です。 他国同様、過去数週間から数ヶ月の期間にわたって、日本はこの数値の上昇を経験しましたが、現在は平衡しており、増加は続いていません。 この減少トレンドがどの国にも続くことが私たちの望みです。

日本当局はオリンピックへの参加者レベル決定について強い自信を持っており、我々はこの決定を彼らに委ねます。 日本当局はすでに観客等の海外からの入国を禁止すると決定したと思います。 ですからそこは現在議題とはなっていません。 つまり問題は、会場で許容される、社会的接触と交流の度合いになります。 繰り返しますが、現在これら対策は取られており、接触度合いに関する決定も、日本当局によって順次行われるものと考えています。

接触という単語を何度も使いました。 我々はこれまでもこのウイルスに関連して、接触について繰り返し話しています。 このウイルスは、人々が長時間高密度に接触する環境で感染します。 ですからアスリートを保護する目的は、このような接触あるいは接近を防ぎ、アスリートにとって安全な環境を提供し、あらゆる参加者にとって安全な環境を維持し、そして会場周辺に安全な環境を提供することです。

課題のいくつかは、その時期の疫学的状況に依存するため、イベントが近づくまで決定できません。 ですから開催者が未だ決定を下していないのは、失敗ではありません。 これら決定は、特定の時期に付随する疫学上の数値に基づいてしか下せないのです。

オリンピックが開催されることは我々の望みです。 他の多くのイベントもです。 過去6ヶ月の間、観客を特別な風船でつつむとか、アスリートやサッカー選手、その他いろんな人たちに特別なことをしたりとかをせずに、スポーツイベントがすごくすごく安全に運営されるのを見てきました。

これは複雑なイベントなのです。 たくさんのイベントがあり、たくさんの代表団がきます。 ロジスティクス、リスクマネジメントが試されます。

我々はIOCと東京都と日本政府が、リスク管理について正しい決定をすると信じています。彼らはこれらのリスクがしっかり管理されるよう、まさに今猛烈に努力しています。 オリンピック会場にどれだけの参加者を入れるかなどの決定は彼らに委ねます。 今現在、彼らが公衆衛生保護のためにとてもとてもシステマチックなリスク管理を実行していると考えているからです。 そして7月が近づくにつれ、彼らは疫学的状況に基づいて必要な決定を下すでしょう。

youtu.be 氏の発言はこちらの動画の19:10付近から。

25の米企業がパンデミック下の不平等に関するレターを公表

f:id:kimurasatoru:20200508102722p:plain

現下の状況を受け、25の企業がOpen to Allを通じ、パンデミック下の人種差別や不平等に抵抗する宣言に署名。レターを公開した。 訳して公開しておく。無許可かつ、急いで訳したので正確ではないことに注意ください。

原文はこちら(Open to All)。 Open to All | COVID-19 Response Corporate Sign-on Letter

======ここから======

COVID-19宣言。企業の署名レター

コロナウイルス(COVID-19)による世界的パンデミックは、日常生活を妨げ、すべての州、そして世界中の人々が影響下にあります。安全第一で、規模の大小にかかわらず多くの企業が従業員と顧客にできることをしています。一時閉店下の従業員への補助、リモートワークの支援、より柔軟な勤務計画、こどもや老人あるいは病にある家族のケアが必要なスタッフへの融通。

ウイルスの急速な広がりをうけ、国はソーシャルディスタンシングによる曲線の平坦化をはじめました。多くの企業は従業員の健康、福利、暮らしを支え、同時に地域や顧客にも目を向けています。業態により財務的余裕や嵐に耐える能力が異なることは理解しています。アメリカのほとんどの企業は今後数ヶ月、極めて厳しい選択を迫られることになります。財務の維持か、今日の企業をまさに作り上げた従業員と顧客を守るのか。「Open to All」とその参加企業は、他企業と事業に可能な範囲でこの考えを検討するよう呼び掛けます。

人種間不平等と戦うための公平に関する宣言

黒人、ラテンアメリカ系、ヒスパニック系、太平洋島嶼系のコミュニティーに対し、COVID-19は不均衡に影響を及ぼし、かつてからの健康と社会経済的不公正を拡大し、死をもたらしています。長期にわたる構造的不均衡は、雇用の不均衡と医療アクセスに強く不均衡をもたらしています。雇用主はこの不均衡を減らす努力ができます。我々は、採用、給与、補助制度、組織内のあらゆる階層での有色人種の昇進など、現在と未来の人事慣行の精査を始めるよう従業員に呼び掛けます。我々は、従来からの採用手段をあらため、採用プロセスにおけるバイアスに向き合い、従業員リソースグループを立ち上げ、昇進査定に客観的指標を使うよう、雇用者に対し求めます。また我々は、健康保険への平等なアクセスの確保、差別撤廃を宣言する保険会社の採用、差別あるいは医療への補助を不公正に拒否された従業員の声を代弁するよう、企業に求めます。

アジア系、太平洋島嶼系の人々への攻撃に立ち向かう

COVID-19が合衆国で広がるなか、アジア系、アジアンアメリカン、太平洋島嶼系の人々、その企業に対するレイシズムによる事件がみられます。ビジネスリーダーとして我々は、このようなアジアンアメリカンや太平洋島嶼系の人々へのレイシズムゼノフォビアによる攻撃を公的に非難し、結束することを求めます。

外見、住む場所、財布の残額にかかわらず、病に直面した我々はその実みな人間です。このウイルスは、黒人、白人、ラテン系、アジア系にかかわらず、我々がみな互いに依存し合っていることを明かにしました。今、我々は相互に支援をする時です。

Facebookと政治広告

もう忘れられていそうなFacebookのLibraに関連して、昨年11月、米国下院のファイナンシャルサービス委員会によってマーク・ザッカーバーグへの聴聞がおこなわれた。そこでのAOCことアレクサンドリア・オカシオ゠コルテスと、マーク・ザッカーバーグのやりとりがおもしろかったので、ざっくり訳す。いうまでもなく訳の品質は保証しない。


Rep. Ocasio-Cortez questions Mark Zuckerberg on when Facebook will fact check

AOCザッカーバーグさん、お会いできてよかった。特定の人物の過去の行動をつかって将来の行動を推定・予測、また決定することが、あなた方の得意なことだと理解しています。Libraについて決定をするために、あなたの過去の行動、そして我々の民主主義との関係におけるFacebookの行動について、ちょっと掘り下げる必要があります。ザッカーバーグさん、ケンブリッジアナリティカについてあなた個人が初めて認識したのは何年何月ですか?

MZ: 正確な時間はわかりません。しかしおそらく問題が報じられたころです。2018年3月ごろだと思います。間違っているかもしれません。

AOCFacebookのCOO、シェリル・サンドバーグさんが認識したのはいつですか?

MZ: 知りません。いまパッとは……。

AOCケンブリッジアナリティカについてガーディアン紙が初めて報じた2015年12月11日以前に、リーダーシップチームの誰かが知っていましたか?

MZ: 議員。そう思います。何人かは内部的に調査していました。そしてお聞きになるので答えますが、私もケンブリッジアナリティカという存在については以前から認識していました。同社がトラッキングしていたか、あるいはどのようにFBを利用していたか具体的には知りません。ただ……

AOCボードメンバーのピーター・ティール(訳注:ティールは米国IT業界の数少ないトランプ支持者)とこの問題について議論したのはいつですか?

MZ: 議員。わかりません。

AOC: これはあなたの会社が関係する最大のデータスキャンダルで、2016年の選挙に破滅的影響をおよぼしました。でもわからないんですね?

MZ: 議員。問題を認識したあとに議論したことは確かです。

AOC: あなたの最近のアナウンスによれば、政治家がお金をはらって誤情報を拡散することを、Facebookはみとめるそうです。そこで、来年どこまで可能なのか知りたいとおもいます。国勢調査データを併用し、黒人の多い郵便番号地域をターゲットとして誤った投票日を、私のお金で広告することは、あなた方のポリシー下で可能ですか?

MZ: いいえ。議員。できません。政治家の発言のニュース価値についてもポリシーがあります。私の理解では……

AOC: しかしあなたは私の広告をファクトチェックしないといいました。

MZ: 我々は……。暴力の原因となり得る、あるいは著名人に危害が及ぶ、または投票・国勢調査への抑圧となり得るような発言が、政治家を含む誰かからあった場合、我々は抑圧防止ポリシーを投入します。そのコンテンツを取り下げます。

AOC: つまり……政治広告のファクトチェックには閾値がある。そういう意味ですか?

MZ: 議員。はい。危害の差し迫ったリスクがある場合など、特定の場合について……

AOC: 大統領予備選挙共和党員をターゲットにとして、ある候補がグリーンニューディールに賛成票を投じたと、私が広告することはできますか?

MZ: 議員。すみません。繰り返していただけますか?

AOCFacebook上で、共和党員をターゲットとして、大統領予備選挙期間中に、ある候補がグリーンニューディールに賛成票を投じた、とする広告を私がだすことはできますか? 政治広告をファクトチェックしないのだとすれば。ここで範囲を理解しようとしているのです。公正さについて。

MZ: 議員。今すぐに答えられません。

AOC: 私ができるかどうかわからないと。政治広告にファクトチェックがまったく欠けていることによる潜在的問題がわかりますか?

MZ: 議員。うそはいけないとおもいます。あなたがうそを含む広告をうつことはわるいことだとおもいます。われわれのポジションでは、選挙中にあなたの選挙区の有権者や人々があなたがうそをつくところを見ないようにすることがただしいことです。

AOC: つまり嘘は削除しない、する? とてもシンプルなイエス・ノーです。

MZ: 議員。ほとんどの場合、民主主義においては、人々は投票するかもしれない政治家が誰なのか自身で確認できるべきだと考えます。

AOC: つまり削除しないんですか? 虚偽だというフラグはつけるかもしれないが、削除はしない。

MZ: 議員。表示されるコンテクストによります。オーガニック投稿、広告……

AOC: もうひとつ質問です。あなたが継続しているディナーパーティーで、極右の参加者が白人至上主義はでっち上げだと唱導しています。「ソーシャルメディアの偏向」といわれるものについて話をしましたか? そしてあなたは偏向があると考えますか?

MZ: 議員。あー。すみません。質問の全部を思い出せません……

AOC: かまいません。すすめましょう。The Daily Callerという白人至上主義者とのつながりがよく知られるパブリッシャーを、Facebookのオフィシャルファクトチェッカーに指名したのはなぜか説明してください。

MZ: もちろんです。我々はファクトチェッカーを個別に指名しません。インディペンデントファクトチェッキングネットワークと呼ばれる独立団体が、ファクトチェッカーとしての業務を許可する団体に対して、厳格な基準によるチェックを行います。

AOC: つまり、この白人至上主義者とつながりのあるパブリッシャーはファクトチェックのための厳格な基準を通過しているというのですね?

MZ: 議員。いいたいことは我々が基準を判断しているのではないということです。インターナショナルファクトチェッキングネットワークが基準を定めています。

——

オンライン政治広告への批判の高まりをうけ、昨年11月、Twitterは政治広告の全面停止を決定。同月、Googleは政治広告について精度の高いターゲティングの停止を決定した

今日(1月9日)、Facebookは政治広告のターゲティングの制限も、虚偽広告の禁止も実質行わないことを発表した。

退職したのでこれまでやってきたことをまとめたら書いてて自分で謎だとおもった

ながく勤務していたバウ広告事務所を、2019年8月ではなれることにした。どんな仕事をしていたのか、以前から説明に困ることもおおかったけど、職をはなれたらますます説明しづらいことがわかった。年末でもあるし(?)、この機会にここに書いておきたい。

ざっくりしたこと

同社は広告制作会社だけど、グラフィックデザインスタジオといった方がたぶん実態にちかい。50人くらいで2/3がデザイナー。契約社員〜正社員〜取締役として、11年3ヶ月在籍した。情シス〜ヘルプデスク的な業務がメインだったが、ほんとになんでもやっていた。最後の2年間は取締役として、採用・人事制度・契約・法務などなどのバックオフィス業務全般にたずさわった。並行してタイポグラフィの知見をいかしたアドバイザリーぽいこともしていた。

情シス不在から、現代的な環境を整備するまで

そもそも同社には情シス的ポジションがなく、兼任スタッフが整備をおこなっていた。このため業務環境、とくに「制作」とよばれるデザイン系の作業環境の更新がとどこおってしまい、身動きがとれない状態となっていた。(もちろん兼任の方のせいではない。おもいかえせば結構古くなってしまっていたけど、当時はそういう会社がおおかった)。 そこで、デザイナーとして勤務経験があったぼくに、半年間の契約でこの環境を改善するよう依頼があった。結果、そこからそのまま11年、ひとり情シスとして勤務することになった。

Mac主力の小規模オフィス(=ADがない)としては、最終的にそこそこ悪くない感じになったかな…とおもっている。 時にはケーブルの床下配線もしつつ、ユーザ業務への負担をおさえながら、将来を見据えた環境づくりを心がけた。 よくいわれることだけど、定着こそがだいじだ。私見だけど、グラフィックデザイナーやグラフィックアーティストはツールの変更を好まない。カジュアルなデモや講習で有用性を体感してもらったり、ヘルプデスク的にすばやくユーザの疑問を解消することに注力した。もともとデザイナーなので近い目線で話せたのではないかとおもうし、Adobe製品を含め印刷〜DTPに知見があったので、デザイン作業だけでなく外注をふくめたプロセス全体についてアドバイスできたかなとおもう。カラーマネジメント講習をやったりとかもした。

以下は、社内でつかっていた製品群。これをみればおおよその雰囲気がわかる……かな。 ちょっとそれっぽいことを書くと、ADがないのでOneLoginでID管理。スマホはG suiteで制御。ノートPCはMDMで制御。デスクトップ型のMacは構成プロファイルをMunkiで投入して制御した。OneLoginでRadiusしてMeraki…というのがやりたかった…。あとVoIPにはほんとーに苦労した。Merakiの前はYamahaつかってた。

  • デザイン系職のMaciMac 27" + SSD + メモリ16GB
  • 営業系職のPC:Dell XPS 13
  • OneLogin(IdP・SSO)
  • G suite(Gmail、社内ポータル、GDFS、Chrome管理、Android MDM
  • TeamSpirit + Leaders(勤怠管理・経費精算・プロジェクト工数管理)
  • MS O365(Word, Excel等)
  • Phone Appli(名刺管理)
  • VMware AirWatch(MacBook+Win10機のMDM
  • Munki(Macのアップデート管理と、プロフィール制御)
  • Androidスマホ貸与(PBX子機として使用)
  • Cisco Meraki

その他グラフィック用途で特殊なもの

バックオフィス方面でやったこと

法務

この10 年で直説取引メインの業態に変化したため、NDA周りを中心に法務能力の強化が必要になってきた。顧問弁護士とともにここ数年はこの強化に取り組んだ。 知財関連の強化も必要になったので、制作業務プロセスの見直しをした。ライセンスチェックを業務プロセスの中に位置づけて、具体的にはぼくがライセンスを読んだ。ストックフォトやフォントなどは海外の個人作家の著作物がおおく、ライセンスがかなりラフな英語だったりもするので、著作者に直接問い合わせるケースも多々あったりした。セキュリティや著作権の講習なんかもやったりした。

直近では労働法の変化等にあわせ、就業規則の大幅な改訂をめざしてこちらは社労士さんと作業中だった。

労務

いわゆる働き方改革対応もあり、就労時間管理をあれこれ強化していた。経営層が課題把握をしやすくするだけでなく、スタッフに納得感のある軌道修正をめざした。

人事制度

ほとんどの社員が直接部門で売上をもっているので人事評価制度はシンプルだったけど、調査したら満足度が低いことがわかった。誤解や理解不足による不満もおおかったため、現制度の広報をしっかりおこないつつ、改善のための人事評価制度の策定をおこなっていた。スキルマップをつくったり、フィードバック制度の改善を提案したり、スキル特化ポジションをかんがえたりなどなど。

Webチームの立ち上げ

同社は現在もグラフィックメインの会社で、Webに強いとはいえない。でもWeb対応はもちろん必要になったため、初期にはぼくが「ひとりWebチーム」として稼働した。具体的にはデザイン、コーディング、提案、クライアント対応や外注先の管理などなど、要するになんでもやっていた。そうこうしているうちに、ありがたいことに優秀なメンバーが入社してくれてチームが拡大した。おかげでぼく自身は業務をおこなう必要がなくなったが、その後もグラフィック部門との間での齟齬があると、文化的通訳のような作業をしたり、全体の底上げをめざしたりした。

タイポグラフィスペシャリスト

同社は近年、ブランディングをひとつの柱としていて、書体についても「なんとなく」ではない提案が必要になっていた。ぼくはロンドン芸術大学タイポグラフィ修士で、国際タイポグラフィ協会の会員ということもあったりして、この分野の知見があった。このためブランディング案件での書体の選定や、その背景の言語化をお手伝いすることがふえていった。さらに、ロゴ作成プロセスや書体探しなどのこまかな作業にもアドバイスベースで関与した。当初これは非公式な業務だったが、のちに「タイポグラフィスペシャリスト」として公式な肩書きになった。かんがえてみれば「勝手になりゆきでやってるうちに公式な仕事になる」ということがおおかったな…。

退職の理由

直近、年配の創業オーナーが代表に復帰されて、あたらしい方針が示されつつあった。経営方針が変化するのであれば、役員もすこしはいれかわった方がいいだろうし、ここが変化の時かなとかんがえたことが理由。ほかにもなくはないけどそこは割愛。この11年間、ほんとうにいろんな業務にたずさわった。それらに興味を持ってとりくむことができたのは、同社のスタッフが仕えるに値すると感じられるすばらしい仕事をしてくれていたからだ。道半ばの作業もあったりして心残りがないわけでもないけど、おそらくそれはどのタイミングでもそうだろう。11年、そこそこよい仕事ができたかなとおもっている。そうそう、ここまでの話と並行してデザインしてた時期もあったりしたな…。

これからはフリーランスでがんばりまっす

よくきかれるけど、農家になるのではないです。個人事業主としてはたらこうとおもう。かつて同僚に「謎のスキルセット」と評されたこともあったし、奥さんからは「そのスキルセットは会社員向きじゃない?」ともいわれているけど、年齢的にも「次のこと」を取り組むには今が最後かもとも感じており、この機会にもうすこしちがうことをしてみたいなーとかゆるふわなことを言っている。すでにグラフィックのお仕事をほんのすこし、かわったところではプロジェクトの記録を作成するといったお仕事(?)もいただいている。このへんくわしくはまた。仕事ではないけど、相馬田んぼアートにくわえて、国分寺のちょっとした有志プロジェクトに参加したりもしてるよー。

iPadOSのiWorkで物理キーボードの左矢印キーの動作がおかしい件

iPadOS上のiWork(Pages、Numbers、Keynote)で、物理キーボードを使っている場合に、左矢印キーが右矢印キーのように動作する。CTRL+Fでも同様。困る。

iPadOS登場後これに気づきフィードバックしたところ、「既知のバグで調査中」との返答がきた。以下の手順で解消できるとのこと。

  1. 設定>アクセシビリティで以下の設定をオフにする。
    • ボイスオーバー
    • 読み上げコンテンツ
      • 画面の読み上げ
      • 入力フィードバック
        • 文字
        • 文字発音
        • 単語を読み上げる
    • スイッチコントロール
    • 音声コントロール
  2. バイスを再起動
  3. アプリを再起動

イライジャ・カミングス議員の閉会挨拶


Elijah Cummings' closing remarks at Cohen hearing

ポルノ女優への口止めやロシア疑惑について,捜査機関に対する偽証の罪他ですでに禁固3年が確定しているトランプ大統領の元個人弁護士マイケル・コーエン氏が2月27日,下院監視・政府改革委員会の公開公聴会で証言した。同この証言ではトランプ大統領の疑惑に関する重大ないくつの事実が提示されたが,対象的に共和党議員のおおくが懸命に同氏を「信頼できない人物」として印象付けるために行動したことが極めて印象的で,なかでも「嘘つき野郎,ケツに火がついているぞ」とした横断幕を出すなどしたことが話題となった。また,大統領が人種差別主義者だとする同氏の証言を否定するために,共和党議員がホワイトハウスの黒人職員を連れてきたことも批難と混乱を呼んだ。

参考: トランプ氏は「私のうそを望んでいた」 元顧問弁護士が議会証言 - BBCニュース

が,そんなことはともかく。この委員会の閉会にあたって委員長で議長を務めたイライジャ・カミングス議員が行った閉会挨拶にたいへん感銘を受けたので,上記のこととあまり関係なく訳したい。コーエン氏は過去の態度から一変し,同委員会ではトランプ氏,およびかつての自身を含むトランプ氏を擁護する人々を糾弾したが,このカミングス議員の挨拶はこれら内容をうけつつも,証人であるコーエン氏を通して国内に対して訴えかけるものとなっている。この訳では訳としての正確さよりもカミングス議員の激しい感情の動きを重視した。Democracy intact.

合衆国の政治に詳しいわけではないので,用語は適切でない可能性があるし,訳は不正確な可能性が高い。原文あるいはこの挨拶はYouTube動画などで確認できるので,正確さを要求する向きにはそちらにあたることをすすめます。


私が今日この席でずっと聞いていることは知っていたろう。これはとてもつらいことだ。とてもつらいことだ。コーエンさん,あなたはたくさんの過ちを冒した。そしてあなたはそれを認めた。そしてこの事態のじつに悲しいことは,まったく無実の人々まで傷つけられたということだ。あなたも認めているとおり,それはあなたの家族のことだ。

あなたは今日ここにきた。心の底からいうが…,私は法律家として業務を行うとき,問題に直面した法律家というものを代表して業務をおこなっている。今日あなたはここへ来て,過ちを冒したという。しかし今,私は私の人生をやり直したい。いいかね,私たちは…国家として,過ちを冒した人々に,人生をやりなおす機会を与えてこなかった。あらゆるところでやりなおす機会が十分に与えられていない。

あなたがこれからどう生きるのかはわからない。今日この席で,両方の声をきき,とにかく感じたことは…,慎重にいわなければ,私のことばはそうと知れずあちこちで使われることになるのだが…。私たちはもっとよくできるはずだ。本当にだ。私たちは…。国として,我々はもっとよくできるはずだ。

そしていいかね。子供たちにいつもいうことだが,思うところがあって,コーエンさん,あなたにもいう。悪いことがおきたとき『なぜ自分がこんな目に?』と問うてはならない。『自分にこんなことがおきたのはなんのためなのか?』と問うべきなのだ。あなたにこんなことがおきたのが,なんのためなのか私にはわからない。しかし,私の希望だが,ほんの少しでもこれが私たちの国をよくするためであってほしい。あなたの想いを理解できているとしてだ。今日,あなたが「あたらしい正常」の回復を強く訴えていると感じた。私たちが「正常」に戻るということだ。あなたは私たちの民主主義が機能しつづけることを確実にしたいのだと感じた。

トランプ大統領とのある会合で,大統領にこういったことがある。
「大統領閣下,あなたや私が子供たちに残すことができる最良のものは,確実に機能する民主主義です」
民主主義…,これまで経て来たものより,よい民主主義だ。あなたが今日ここで話したことが,私たちがそこに帰るきっかけになることを私は希望する。

いいかね。わかるか? つまり…。ワシントンポストによれば,私たちの大統領はすくなくともこれまでに8,718の嘘あるいはミスリーディングな発言をしたという。衝撃的だ。こんなことを子供たちに教えるのか? すくなくとも私はそんなことを教えたくはない。そして今日,私にはあなたがこの事実に苦しんでいると感じた。あなたは苦しんでいる。あなたは苦しんでいる。あなたは苦しんでいる。

そしてある意味そうあるべきだが,刑務所に入れられるのはつらいことだろう。だが「ネズミ野郎」呼ばわりされるのもひどいことだ。ことの重大さをわかってない人がおおいので説明させてもらうが,私はバルチモアの下町に住んでいるのでね。いいかね。誰かを「ネズミ野郎」呼ばわりするというのは本当に最悪だ。刑務所にいく人間に対して「密告者」という意味だからね。わかるか。大統領はあなたを「ネズミ野郎」と呼んだ。…私たちはこんなものではなく,よりよくあるべきだ!! 本当にだ!! 私たちがみな,この私たちがのぞむ「民主主義」というものに帰ることができると,そう私は希望する。私たちは子供たちにこの私たちがのぞむ民主主義というものを引き渡すべきだし,そうすれば彼らは私たちよりうまくやることができる。

人々があなたの発言を信じたかどうか…私はわからない!! 彼らがあなたの発言を信じたか,私にはわからない!! すくなくとも事実は,あなたはここへきて,頭をさげた。これがあなたの人生でもっともきついことだったはずだ。

想像してしまうと本当に本当に辛いことがある。あなたが刑務所をでて,裁判所をでて,そこにあなたの娘さんがいるんだ。なんてことだろう。私は本当に辛い。二人の娘の父として本当に辛い。そしてあなたがどんな気持ちか想像できる。しかしこれをいっておきたい。なによりありがとう。きつかったことだろう。きついことにたくさん直面しただろう。家族のことが心配だろう。しかしこれはあなたの運命だ。そしてこのあなたの運命が,よりよい,よりよい,よりよい私たちを,よりよいマイケル・コーエンを,よりよいドナルド・トランプを,よりよいアメリカ合衆国を,よりよい世界へと繋げてくれることを望む。本当に心の底からだ。

天使たちと踊りながら,私たちが問われるべき問いはこれだ。
「2019年,私たちの民主主義を確実なものにするため,私たちは何をしたのか」
「私たちは場外で眺めていて,何もいわなかったのではないのか!」

そしてもう聞きたくないのだがね。みんな私のところにきて「へええ,ではこれが最初の聴聞ですか」というんだ。これは最初ではない! 最初の聴聞は処方薬についてだった。思い出してもらいたい。ちいさな娘さんだ。あそこに座っている女性。彼女の娘さんは,月に$330のインシュリンが手に入れられなくて死んだ!! それが最初の聴聞だった!! そして次が下院法案H.R.1だ!! 投票権!! 政府の腐敗対策!! いいかね! 私たちはもっとできるはずだ!! そして正常に戻る必要がある!! 以上をもって,閉会とする!

CSSで和文組版をすこしだけそれらしく。

ブログを書くにあたってCSSにすこし手をいれた。何しろ5年ぶりに書くのだから,いくらか和文対応を足してもわるくはないだろう。

和文の両端ぞろえ(ベタではない)。 justifyした上で,和文文字間を字間調整の対象に。

text-align: justify;
text-justify: inter-ideograph;

(ところでW3Cのこの記事は面白そうだ。いずれよみたい → CSS Text Module Level 3

font-familyを2019年ぽく游明朝に。 ラテン文字Google FontsからEB Garamondを簡単に混植して,ついでにGeorgiaにフォールバックしておく。

font-family: 'EB Garamond', Georgia, "游明朝体", "YuMincho", "游明朝", "Yu Mincho", serif;

見出しだけせめて行頭約物半角ぽく。(実際にはh2以下にも付与)

h1::first-letter {
  font-feature-settings: "palt";
}

ハイフネーション適用。lang="en"しないといけないし,Markdown環境ではつかわないろうけど設定だけしておく。

hyphens: auto;

First Things First Manifesto

First Things First Manifestoの個人的な試訳をWeb上に置いておきたい。

(2006年6月にはてなダイアリーに投稿した内容の再掲)

20140225追記

Cole Petersさんによって2014年版が準備されており,3月3日に公開される見込み。また,Wikipedia日本語版の記事も気づけばかなり充実した内容になっていた。ついでにださい誤字を修正。

「最初にすべきことを最初に」宣言(1964年オリジナル版)

ここに署名する我々は,グラフィックデザイナー,写真家,そして学生である。我々は広告技術・機構こそがもっとも有利で,効率的・魅力的な我々の手腕の活かし方だとされる世界に育った。キャットフード,胃薬,合成洗剤,毛生え薬,縞模様のついた歯磨き粉,髭剃り後ローション,髭剃り前ローション,痩せる食品,太る食品,におい消し,ソーダ水,タバコ,伸縮下着,ゴム入りズボン,スリッポン。こんなようなものを売るために技能と想像力を売り飛ばす人々を賞賛し,広告こそが正しいと主張する出版物に我々は責め立てられてきた。このような,この国の将来にほとんどないしはまったく貢献しないどうでもいい目的のために,広告産業に従事する人々の途方もない時間と労力が無駄になっている。

市民社会の拡大とともに我々はある飽和点に達しており,もはや押し寄せる消費者向けの販売攻勢は騒音以上のなにものでもない。我々は我々の技能と経験を活かすより価値のある仕事があると考える。例えば道路標識,看板,書籍,定期刊行物,カタログ,取扱説明書,工業写真,教育補助のためのツール,映画,テレビ番組,科学・工業出版物,我々の産業・教育・文化,そして世界の人々の意識に貢献するすべてのメディアがそうだ。

我々は消費者向けの激しい広告を廃止せよと主張しているのではない。そんなことは不可能だ。楽しい仕事がしたいというのでもない。より有用で持続的なコミュニケーションのために優先順位の反転を提案しているのだ。我々は販売のためのギミックやセールスマン,悪辣な隠し広告,そういったものに人々が辟易とし,そして我々の技能が有用な目的のために活用されることを希望する。この考えの下,我々は我々の経験と考えを共有し,関心を持つ仲間や学生等に供することを提案する。

Edward Wright, Geoffrey White, William Slack, Caroline Rawlence, Ian McLaren, Sam Lambert, Ivor Kamlish, Gerald Jones, Bernard Higton, Brian Grimbly, John Garner, Ken Garland, Anthony Froshaug, Robin Fior, Germano Facetti, Ivan Dodd, Harriet Crowder, Anthony Clift, Gerry Cinamon, Robert Chapman, Ray Carpenter, Ken Briggs

Wikipedia英語版記事

簡単な解説:この宣言はイギリスのグラフィックデザイナ-,ケン・ガーランドによって63年11月29日に起草され,翌年4月,22人の署名とともに発表された。発表後400人以上のグラフィックデザイナーやアーティストが支持を表明し,デザイン雑誌を中心とした多くのメディアに掲載された。また,共感した英国議員トニー・ベンによってThe Guardian紙にも掲載された。当時,グラフィックデザインは経済成長に後押しされた広告産業の拡大によって急速にその主とした職域を広告産業へと移行しており,その形態・質が大きく変化しつつあった。ガーランドを始めとする一部のデザイナーはこの変化に危機感を持っており,ある種のバランスのとれた世界を目指した。この宣言は「グラフィックデザインは伝達されるメッセージに対して常に中立的であるべきなのか。あるいは中立的であることが可能なのか」という今日まで続く議論を引き起こした。後にこの宣言はカナダのAdbusters誌に再度掲載され,2000年に改訂版が各主要デザイン誌上で発表された。

First Things First (1964)

We, the undersigned, are graphic designers, photographers and students who have been brought up in a world in which the techniques and apparatus of advertising have persistently been presented to us as the most lucrative, effective and desirable means of using our talents. We have been bombarded with publications devoted to this belief, applauding the work of those who have flogged their skill and imagination to sell such things as: cat food, stomach powders, detergent, hair restorer, striped toothpaste, aftershave lotion, beforeshave lotion, slimming diets, fattening diets, deodorants, fizzy water, cigarettes, roll-ons, pull-ons and slip-ons. By far the greatest effort of those working in the advertising industry are wasted on these trivial purposes, which contribute little or nothing to our national prosperity.

In common with an increasing numer of the general public, we have reached a saturation point at which the high pitched scream of consumer selling is no more than sheer noise. We think that there are other things more worth using our skill and experience on. There are signs for streets and buildings, books and periodicals, catalogues, instructional manuals, industrial photography, educational aids, films, television features, scientific and industrial publications and all the other media through which we promote our trade, our education, our culture and our greater awareness of the world.

We do not advocate the abolition of high pressure consumer advertising: this is not feasible. Nor do we want to take any of the fun out of life. But we are proposing a reversal of priorities in favour of the more useful and more lasting forms of communication. We hope that our society will tire of gimmick merchants, status salesmen and hidden persuaders, and that the prior call on our skills will be for worthwhile purposes. With this in mind we propose to share our experience and opinions, and to make them available to colleagues, students and others who may be interested.

Edward Wright, Geoffrey White, William Slack, Caroline Rawlence, Ian McLaren, Sam Lambert, Ivor Kamlish, Gerald Jones, Bernard Higton, Brian Grimbly, John Garner, Ken Garland, Anthony Froshaug, Robin Fior, Germano Facetti, Ivan Dodd, Harriet Crowder, Anthony Clift, Gerry Cinamon, Robert Chapman, Ray Carpenter, Ken Briggs

英語原文

FTF1964 Ken Garland先生のサイト

「最初にすべきことを最初に」宣言 2000年版

ここに署名する我々はグラフィックデザイナー,アートディレクター,ビジュアルコミュニケーターである。我々は広告技術・広告機構こそがもっとも有利で,効率的・魅力的な我々の手腕の活かし方だとされる世界で仕事をしてきた。多くの教育者達がこの考えを奨励し,市場はこれを支持し,無数の書籍・出版物が後押ししている。

そして奨励される通り,犬用のビスケット,デザイナーコーヒー,ダイヤモンド,合成洗剤,ヘアジェル,煙草,クレジットカード,スニーカー,家庭用フィットネス器具,ライトビール,そして大型RV車,これらを売るためにデザイナーは技術と想像力を使っている。コマーシャルワークは常に利益をあげ,そして多くのデザイナーがこれこそグラフィックデザイナーの本分だと見なすようになった。今やこれこそが世界で考えられているデザインのありかただ。専門家の時間と労力がおよそ必要とはいいがたいもののために使い果たされている。

我々の多くはこのデザインのあり方に違和感を感じるようになった。広告・マーケティング・ブランド開発に主として従事しているデザイナー達は,商業的メッセージが一般消費者の精神環境を侵し,そしてその会話・考え・感覚・行動・相互関係に強い影響を及ぼすための潜在的な手助けをしている。そして我々は全員多かれ少なかれこの計り知れないほど有害な社会のあり方を後押ししている。

我々の問題解決能力にはもっとふさわしい役割がある。環境・社会・文化のかつてない危機が我々の注意を求めている。企業の社会貢献キャンペーン,書籍,雑誌,展覧会,教育ツール,テレビ番組,映画,慈善運動,その他の情報デザインプロジェクト。多くの文化的活動が我々の専門的技術と助力を必要としている。

我々はより有用で持続的な民主的コミュニケーションのために優先順位の反転を提案する。商品のマーケティングから離れ,新しい意義の探求と創造へと意識を転換するのだ。議論の枠組みは縮小している。むしろ拡大しなければならない。消費主義が議論されることなく進行している。視覚言語とデザイン資源によって示される別の視点から議論されなければならない。

1964年,我々の技能のより価値ある活用への最初のよびかけに22人のビジュアルコミュニケーターが署名した。グローバルな商業文化の爆発的拡大の中,彼らのメッセージの緊急度は増すばかりだ。次の数十年の間にこの宣言が理解されることを期待し,ここに我々は彼らの宣言を更新する。

Jonathan Barnbrook, Nick Bell, Andrew Blauvelt, Hans Bockting, Irma Boom, Sheila Levrant de Bretteville, Max Bruinsma, Siân Cook, Linda van Deursen, Chris Dixon, William Drenttel, Gert Dumbar, Simon Esterson, Vince Frost, Ken Garland, Milton Glaser, Jessica Helfand, Steven Heller, Andrew Howard, Tibor Kalman, Jeffery Keedy, Zuzana Licko, Ellen Lupton, Katherine McCoy, Armand Mevis, J. Abbott Miller, Rick Poynor, Lucienne Roberts, Erik Spiekermann, Jan van Toorn, Teal Triggs, Rudy VanderLans, Bob Wilkinson

Wikipedia英語版記事

First Things First Manifesto 2000

We, the undersigned, are graphic designers, art directors and visual communicators who have been raised in a world in which the techniques and apparatus of advertising have persistently been presented to us as the most lucrative, effective and desirable use of our talents. Many design teachers and mentors promote this belief; the market rewards it; a tide of books and publications reinforces it. Encouraged in this direction, designers then apply their skill and imagination to sell dog biscuits, designer coffee, diamonds, detergents, hair gel, cigarettes, credit cards, sneakers, butt toners, light beer and heavy-duty recreational vehicles. Commercial work has always paid the bills, but many graphic designers have now let it become, in large measure, what graphic designers do. This, in turn, is how the world perceives design. The profession's time and energy is used up manufacturing demand for things that are inessential at best.

Many of us have grown increasingly uncomfortable with this view of design. Designers who devote their efforts primarily to advertising, marketing and brand development are supporting, and implicitly endorsing, a mental environment so saturated with commercial messages that it is changing the very way citizen-consumers speak, think, feel, respond and interact. To some extent we are all helping draft a reductive and immeasurably harmful code of public discourse.

There are pursuits more worthy of our problem-solving skills. Unprecedented environmental, social and cultural crises demand our attention. Many cultural interventions, social market- ing campaigns, books, magazines, exhibitions, educational tools, television programs, films, charitable causes and other information design projects urgently require our expertise and help.

We propose a reversal of priorities in favor of more useful, lasting and democratic forms of communication - a mindshift away from product marketing and toward the exploration and production of a new kind of meaning. The scope of debate is shrinking; it must expand. Consumerism is running uncontested; it must be challenged by other perspectives expressed, in part, through the visual languages and resources of design.

In 1964, 22 visual communicators signed the original call for our skills to be put to worthwhile use. With the explosive growth of global commercial culture, their message has only grown more urgent. Today, we renew their manifesto in expectation that no more decades will pass before it is taken to heart.

Jonathan Barnbrook, Nick Bell, Andrew Blauvelt, Hans Bockting, Irma Boom, Sheila Levrant de Bretteville, Max Bruinsma, Siân Cook, Linda van Deursen, Chris Dixon, William Drenttel, Gert Dumbar, Simon Esterson, Vince Frost, Ken Garland, Milton Glaser, Jessica Helfand, Steven Heller, Andrew Howard, Tibor Kalman, Jeffery Keedy, Zuzana Licko, Ellen Lupton, Katherine McCoy, Armand Mevis, J. Abbott Miller, Rick Poynor, Lucienne Roberts, Erik Spiekermann, Jan van Toorn, Teal Triggs, Rudy VanderLans, Bob Wilkinson

原文